易経「繋辞下伝」を読み解く9

易経繋辞伝
Pocket

易経「繋辞下伝」を読み解く8
繋辞下伝第2章第5節

易経「繋辞下伝」を読み解く9

木を刳(く)りて舟と為し、木を剡(けず)りて楫(かい)と為し、舟楫(しゅうしゅう)の利、もって通ぜざるを済(わた)し、遠きを致してもって天下を利する。蓋しこれを渙(かん)に取る。(繋辞下伝第2章第6節)
「 木を刳(く)りて舟と為し、木をけずりて楫(かい)と為し、舟楫(しゅうしゅう)の利、もって通ぜざるを済(わた)し、遠きを致してもって天下を利する。蓋しこれを渙(かん)に取る。 」

「木をくりぬいて船と為し、また木を削って船の櫂とした。船の発明は、今まで通ることの出来なかった水上の行き来を可能とし、より遠くへの往来が可能となり、天下(の人々)に大いに利益を施した。おそらくこれは“風水渙”の卦の象を参考に思い付いたものであろう。」

「風水渙」の象(形)は、上卦が巽(木)であり、下卦に坎(水)がありますから、これを水に浮かぶ木より「舟」を類推します。また二爻、三爻、四爻で「震(木)」をとり、四爻、五爻、上爻の「巽(木)」を合わせると、三爻四爻の陰爻(- -)でちょうど中に空間ができます。二爻の陽爻(—)を舟を進める「櫂」に見立て、船の象に取る。

また風水渙の卦は、卦象全体が船が水上を進んでいる様子を表しています。

二爻、三爻、四爻で「震」 と、上卦の「巽」を合わせれば第3節で引用した「風雷益」ですから、船の発明は天下万民に大いに利益をもたらしたことでしょう。

この句で第2節同様に「利」を用い、その発明を賞賛する背景には、孔子もまた「風水渙」の卦の互体に「風雷益」の卦を見出したからでしょう。

牛を服(ふく)し馬に乗り、重きを引き遠きを致して、もって天下を利する。蓋しこれを随に取る。(繋辞下伝第2章第7節)
「 牛を服(ふく)し馬に乗り、重きを引き遠きを致して、もって天下を利する。蓋しこれを随に取る。 」

「牛馬を繋ぎ、荷を運んだり、馬に乗って遠方の往来を可能とした。おそらくこれは“沢雷随”の卦の象を参考にしたのであろう。」

「沢雷随」の卦は、下卦が「震(木)」で“動く”の象意。上卦は「兌(金)」で“説ぶ(よろこぶ)”の象意があり、牛馬が人間の指示に従って動く様子を表すとします。

この卦も三爻、四爻、五爻で「巽」をとり下卦の「震」と合わせると「風雷益」となりますから、孔子は前節同様に「利」の文字を取ってこの発明を賞賛する。

一方でこの卦、二爻、三爻、四爻を取って「艮(山)」とし、上卦の「兌」と合わせれば「沢山咸」の互体を取れますから、人間の指示に従って牛馬が進むことを示します。沢山咸の咸は“感”であり、“感服”と牛馬が人間の指示に逆らうことなく従順に進みゆく様子です

繋辞下伝の一連の孔子の卦の引用は、伝承の再編か孔子の想像か、いずれにしても易の卦象に向かい合って深い洞察の元に導き出された一つの解なのです。

Pocket

コメント

タイトルとURLをコピーしました